「いらっしゃいませ」の声色に、僕はそれが君だということにやっと気が付いた。閉店間際のファーストフードショップというシチュエーションが意外だったということもあるけれど、僕が思い出す君の姿は5年前から変わらぬ姿のままなのだということにも気が付いた。長い髪を弄る癖、いつも照れたような恥ずかしそうな笑顔。
思わず顔を上げた僕を見た君の表情が変わるまで、その時間の分、僕にも5年のギャップがあったということだろう。「元気?」小声で尋ねた僕に「ええ」とだけ小さく答えて仕事を続ける君は、僕の知らない人のようだった。
5年の月日を経て君は、物怖じしない笑顔を、大人びた輪郭を、そのほか僕の知らない幾つかのものを手に入れた。そして幾つかのものを失くしたのだろう、僕がそうしてきたように。あの頃の僕等と一体何が変わったのだろう。全てが。けれどあの時から続いているのだ、何もかもが。
1杯のコーヒーを飲み終えて、僕は立ち上がる。今の僕が戻るべき場所へ帰る為に。最後に振り返った僕を、君は見覚えのある少し照れた笑顔で見送った。「ありがとうございました」